活動便り

出前授業

出前授業、小学校 3 年生へのゴムの授業は難しかった

大阪大学名誉教授 畑田耕一

 箕輪小学校の 3 年生 42 人にゴムはなぜ伸び縮みするのかを 2017 年 6 月 22 日に授業して欲しいと頼まれました。小学校 3 年生になってまだ 2 カ月余りの児童には難し過ぎるテーマです。実際授業をはじめてみると、児童がてんでばらばらにしゃべるだけで、授業を双方向的に行うことがかなり困難です。これでは、この授業に必要な分子の概念の理解がかなり難しいな、と思いつつ授業を始めました。

 先ず、分子とは物質を作っている目に見ない小さな粒であること、それは物質によって大きさや形が違うこと、ゴムやプラスチックの分子は巨大分子(ポリマー)といって細長い紐のような形の分子であることをお話ししました。

 ここで、分子の大きさはものによって違うことを理解してもらうために、アルコール(エタノール)と水の混合実験を行いました。水 50ml ずつを混ぜると 100ml になります。これはアルコールを 50mlずつ混ぜても同じことです。ところが、アルコール 50ml と水 50ml を混ぜると 100ml にはならず、約 95ml になります。この混合実験の結果は児童たちにも確認してもらいました。この混合による体積減少のメカニズムは、米粒 50ml と大豆 50ml を混ぜると、100ml よりはかなり少なくなることから類推することが出来ます。すなわち、アルコールの分子に比べて水の分子がかなり小さいために、アルコール分子とアルコール分子の間にある空間に、それよりも小さな水の分子が入り込むことによって 体積減少が起こると理解できます(http://culture-h.jp/hatadake-katsuyo/bunshi.pdf)。

 ところでゴムの伸び縮みと縮む力は何処から出るかはかなり難しい話になります。これは次のようにお話ししました(http://culture-h.jp/hatadake-katsuyo/fun%20of%20rubber.pdf)。ゴムひもを両手に持って引っ張ると伸びますが手を離すと元の長さに縮みます。この様なゴムの性質はどうして生まれるのかを理解するのに、次のような頭の中での思考実験をしてみて下さい。100m 程度の細くて長い糸を 1 本用意し、それに 20~30 匹のカナブンの足 1 本を 5m 程度離して瞬間接着剤でくっつけます。カナブンを全部つけたところで、糸つきのカナブンを広い部屋の中へ放します。部屋の一方向から強い光が射しているようなことさえなければ、カナブンはそれぞれ自分の好きな方向に飛びまわるので、その足についている糸はそれが絡み合わない限り、ピンと張るような規則正しい形ではなく、ランダムな縮まった形になります。カナブンが激しく飛び回れば飛び回るほど、糸は縮まった形にならざるを得ません。そのときに、二人の人がそれぞれ糸の両端を持って強く引っ張ると、カナブンの力より人間の力が強ければ、糸は伸びてピンと張ります。手を離すと、またゴチャゴチャの形になる、すなわち縮みます。このカナブンのついた糸をゴム分子のモデルと考えると、ゴムが伸びたり縮んだりする理由が何となく理解できると思います。すなわち、ゴムは細長い巨大分子から出来ているので、その各部分がカナブンの足についた糸のように激しく動くと、丸まった形になって縮みます。外部から力を加えれば伸びますが、力を取り去れば縮むわけです。ポリマーはガラス転移点というその分子に固有の温度を超えると、全体としては固体であっても分子の各部分はそれぞれかなり激しく動くようになります。 天然ゴムはシス-1,4-ポリイソプレンというポリマーで、ガラス転移点が−70°C なので、室温では分子の各部分はそれぞれ激しく動いており、外部から力が加わらない限り丸まろうとする傾向が強い、すなわち、縮んでいるのです。

 しかし、ゴムの木の樹液から取り出したばかりのゴムを引っ張ってもだらだらと延びるだけで手を離しても元の長さには戻りません。これは、ゴムという巨大分子の長さは実際に手にしているゴムのひもに比べればはるかに短いので、ゴムを引っ張っても一つのゴム分子の両端を手で持って引っ張ったことにはならず、分子と分子の間でずるずると滑ってしまうためです。われわれが実際に使用するゴムは加硫といって、ゴムの木から取り出したゴムを硫黄と反応させてゴムの分子同士をところどころ硫黄原子でつないであるのです。つまり、 ゴムの塊はそれ自身が実に巨大な一つの分子になっているのです。こうすることによって外部から加えられた力が直接ゴムの分子にかかるようになり、引っ張れば伸び、手を離せば元の長さに戻るというゴムの性質が現れるわけです。

 ただ、このお話しはかなり理解の難しい内容で、小学校 3 年生がいきなりこの話を聞かされてさっと分かるようなものではありません。そこで、話の理解を深める手立てとして、ゴムを用いた実験を行いました。先ず、かなり重い錘をぶら下げたゴム紐に熱湯をかけるとゴムが縮んで錘が持ち上げられる実験をしました。ゴムの温度を、熱湯をかけて高くしてやるとゴム分子が室温の時よりも激しく動いて縮む力が強くなり錘が持ち上がるのです。このゴム紐に氷水をかけるとゴム分子の温度が下が
り分子の運動が小さくなってゴムの縮む力が弱まり、錘が下がります。

 次に、全く弾まないゴムのボールを熱湯に入れてあたためてから床に打ち付けると天井まで飛んでいくスーパーボールに変身する実験をしました。これはゴム分子の温度が上がって、ゴムボールの変形が元に戻ろうとする力、すなわちボールの変形で引き伸ばされたゴム分子が元の長さに縮もうとする力が強くなったせいです。これらは少しレベルの高い話で、小学校 3 年生には理解の難しいことであるのは間違いありません。ただ、児童たちは見たことのない不思議な実験に魅せられて一所懸命に聞いてくれました。

 天然ゴムによく似た構造のトランス-1,4-ポリイソプレン(グッタペルカと呼ばれる樹脂)は、ガラス転移点、融点ともシス-ポリイソプレンの天然ゴムよりも高く、加硫したものも室温では樹脂状でゴムの性質は示しません。熱湯に浸すと分子運動が激しくなってゴムに変身し、伸び縮みするようになります。ゴム状態で引っ張ったものを室温まで冷却すると、そのままの形で固化しますが、これを再度湯につけると直ちに元の長さ・形に戻ります。加硫すなわち分子間の橋かけにより最初の形が記憶されているためで、形状記憶樹脂として用いられています。上記二つの実験の意味がある程度分かった児童は、このグッタペルカを用いた実験は興味を持って見ることができたと思います。

 ゴムには膨潤という特異な性質があります。ゴムを溶剤に浸すと膨れるという性質で、自動車のガソリンポンプのパッキングを一度外すと膨れていて元に戻せないという経験をお持ちの方もあるかと思います。ゴムの分子に高い親和性を示す溶剤の分子が互いに橋かけされたゴム分子同志の隙間に入り込むために起こる現象です。本来はゴムの欠点と見做されるべき性質ですが、水で膨潤するゴムでパッキングをつくり、トンネル内の漏水防止に役立てるという様な使い方があるのです。たとえば、水に非常によく溶けるポリアクリル酸ナトリウムを橋かけにより不溶化させたものは、元の体積の数百倍まで水を吸って膨れあがります。一度吸われた水は放置しても中々逃げてはいきません。紙おしめや生理用品から砂漠の植樹にいたるまで広範囲に応用されて成果をあげています。この高吸水性ポリマーも実際に実験して見てもらいました。

 このようなゴム関連のものを用いての実験だけでなく、巨大分子を用いて作られた日常生活に用いられている製品やその中身を示しながらの巨大分子の科学のお話し、ひいては科学あるいは理科の面白さをお話ししたつもりです。現場の先生の力もお借りして、児童の一割ぐらいは何とか分かってくれたかなと思いつつ、授業を終えました。

 児童の感想文を見てみましょう。「分子のじゅぎょうはすごくわかりやすく畑田先生が上手に教えてくれたから理科のべんきょうがたのしくなってきました」には思わずにっこりさせられます。また、「カメラの中にプラスチックの部品がいっぱい使われているのを見てびっくりしました。おもりをぶら下げたゴムヒモがねっとうでちぢんで氷水でのびるのがふしぎでした。水とアルコールをそーっと入れてまぜたらたいせきがへるからびっくりしました。いろいろなじっけんをしてたのしかったです。またきてほしいです」には少々驚きました。この授業には教科書はありません。プリントを配ったわけでもありません。3 年生には先生が黒板に書かれたことを写す以外に授業の内容をノートする習慣も殆どありません。授業が終わって少したってからこれだけのことがかけるのは授業をよく理解しながら聞いていた証拠です。

 どちらの感想文にも「楽しい」という言葉が使われています。「理科がたのしくなってきた」、「じっけんがたのしかった」と言ってくれているのは大変ありがたいことです。「理科の授業では虫や生物のかんさつしかしていませんが、実けんをはじめてみてとても楽しかったです」や「分子やゴムのことがはじめはわからなかったけどだんだんわかってきました。べんきょうがとても楽しかったです」のように実験を含む理科の授業を楽しいものと捉えて感想を書いてくれた児童は 13 人に上りました。

 さらに大事なことは、「この授業を聞いてから理科がすきになりました」や「むずかしかったけど楽しかった。理科がすきになりました」のように、この授業を切っ掛けに理科が好きになったと応えてくれている児童が 10 人いることです。上記の、授業を楽しいものと捉えて感想を書いてくれた 13 人の児童の中に「むずかしかったけど楽しかった」という意味の感想を述べている児童が 2 人いました。彼等は理科の難しさを楽しんでいたとも解釈できるわけで、将来の科学者の卵なのかもしれません。難しい理科を専門とする科学者を、科学者の理科系の仕事を眺めて楽しいと思う一般の人たちが支援しつつ何らかの意味での協力を惜しまない社会が出来上がっていけばいいな、と秘かに思っています。

 「ゴムボールはあついとはねる、ひやすとはねない。家で妹といっしょにじっけんをしてみます」には、火傷に気を付けながら是非とも妹さんと一緒に実検をしてみて欲しいと思っているのですが、この実験のことを感想文に記してくれた児童は 2 人でした。一方、「分子やゴムのことは少しむずかしかったけどいろいろなことが分かりました。錘をつるしたゴム紐にねっとうや氷水をかけるじっけんはすごかったです」のように、錘をつるしたゴム紐に熱湯をかけるとゴムが縮んで錘が持ち上がり、氷水をかけるゴム紐が伸びて錘が下がる実験に言及した児童は 6 人いました。ゴムの伸び縮みとボールが弾むこととの関連あるいは対応をもう少し時間をかけて説明したらもっとゴムに興味を持ってもらえたかなと思っています。

 水とエタノールとの混合による体積減少の実験について述べていた児童は 3 人でした。「アルコールと水を混ぜる実験の結果はすごいと思った」のようにこの実験に強い興味を示した児童もいるのですが、混合による体積減少の意味が、かなり理解しにくかったかもしれません。

 「全ぶむずかしかった」という児童もいるくらいですから、授業内容が 3 年生にとって相当難しかったことは間違いありませんが、それを児童が何とか理解しようと一所懸命努力してくれたこともまた間違いありません。上に記した児童の感想はそれをはっきりと示しています。「分子ってすごいと思いました」や「じゅぎょうむずかしかったけどぼくは理科でじっけんが一番すきだったからうれしかったです」はその証拠ではないでしょうか。「分子のことがなかなかよくわからなかった」は分子のことを一所懸命に考えましたよ、という意味に理解したいと思います。

 授業の後、教頭先生、理科の担任の先生といろいろなお話をしました。この小学校では、理科の授業は音楽、家庭科とともに専科になっています。専科の授業にはその科目専任の先生が居られて、高学年の専科の授業ではクラス担任の先生に変わって専任の先生が授業をされます。箕輪小学校の場合は 4・5・6 年の理科の授業は専科の先生が担当しておられるとのことでした。小学校の 1・2 年には理科と社会の授業はなく、この二つを一緒にした生活科という名前の授業が行われています。理科と社会の授業は 3 年生から始まるのです。今回私の授業を受けた 3 年生は理科の授業が始まってまだ 2 カ月余りだったのです。このあたりが、授業がやり難かった一つの原因だと思います。

 そこで、昨年の 2016 年 12 月 13 日に今回の箕輪小学校とほとんど同じ授業を行った熊野田小学校 3年生の三つのクラスの感想文を読み直してみました。

 「ゴム紐に錘を下げてお湯をかけたら上がり、氷水をかけたら下がるのが面白かった。室温で伸び縮みしないゴムを、お湯やお水につけたら伸びたり縮んだりするのはすごいなぁと思って聞いていました。カメラのほとんどの分品がプラスチックだとはしりませんでした。楽しかったです」は熊野田小学校 3 年 1 組の児童の感想です。3 年生の児童の文章にしてはよくかけているとは思いますし、授業が終って三日たってからこれだけの内容の文章を書けるのは立派です。しかし、よく読めばいくつかの問題点はあります。先ず、「お湯」は正確には「熱湯」です。また、「上り」と「下がり」という語はこの実験を見たことのない人には少し分かりにくいでしょう。2 番目の文章は「室温では伸び縮みしないゴムを、熱湯につけると伸び縮みするゴムに変わり、それを冷たい水につけるとまた元の伸び縮みしない固いゴムに変わる」という実験に相当するものですが、児童の文章では「固いゴムはお湯や水に入れると伸び縮みするゴムに変わる」ともとれるし「固いゴムを熱湯に入れると伸びて水につけると縮む」という解釈も可能です。こういう曖昧な文章になったのは、文章を書く力の問題だけではなく、授業が 3 年生には少しむずかしかったことを示しているのかもしれません。「分品」は勿論「部品」の間違いです。

 両校 3 年生の感想文の特徴を対比したのが次の表です。一番大きな違いは児童個人が興味を持ったと書いている授業内容の項目の数の児童数に対する百分率(表の 1 行目から 6 行目まで)です。この値は、大抵の場合に、熊野田小学校が箕輪小学校よりもはるかに大きな値になっています。他人の話を聞いてその内容を頭に入れて置く能力が 3 年生になりたて(6 月)と、8 カ月後(12 月)でこんなに違うのです。授業が 3 年生にはかなり難しかったとはいえ、物事の理解力が 3 年生の半年で随分開発されていることを示しているのだと思います。

 錘をつるしたゴム紐に熱湯あるいは氷水をかける実験が、熊野田の3年2組を除いて、一番児童の興味を引いているのは、この実験がゴムの伸び縮みの根本原理に関わる重要なもので、ゴム分子のセグメント運動は温度が高い方が激しいことを児童が何となく理解してくれた結果であると思っています。熊野田の3年2組だけがスーパーボールの実験と入れ替わっているのは、何か特別な事情、例えば授業の後でクラスが一緒になってスーパーボールを用いて実験をしたとか、クラスで私の授業について話し合いをしたとか、があるのかもしれません。また、このクラスに論理性よりも感性の強い児童が多く集まっているためというような解釈も可能です。熊野田の3年1組がカメラのプラスチック製部品に非常に強い興味を示しているのも何か特別な理由があるのだろうと思います。

 箕輪小学校の児童の室温では固くても温度を上げるとゴムになるトランス-1,4-ポリイソプレンに対する興味が非常に低いのは、この実験の内容が3年生になりたての児童に対して難しすぎたのだと思います。

 「小さい時から理科は好きで、テレビの番組も見ていたけれど、今度の授業のようなすごいのは初めてです。ゴムの分子でできている糸などの力もすごく分かり易かったです。ゴムの力がないゴムにお湯をかけると伸び縮みするようになるのには『えっ?』と思いました。プラスチックがいろいろなものに使われているのもすごいです。もっと理科が好きになりました」や「スーパーボールのはねないものをお湯にしばらく入れたら、はねてすごかったです。固いゴムをお湯につけた時もびっくりしました。とても面白かったです。お家でもお母さんに話しました」あるいは「理科がすごいことが分かって理科がすきになりました。特に、おもりにお湯をかけると上がり、水をかけると下がるのがすごかったです。スーパーボールを温めるとすごくはねかえることもすごいです。これからも理科をがんばるので畑田先生もがんばってください」はこの授業が箕輪小学校の児童にかなり強い衝撃を与えたことを示しています。「この授業を受けて理科が好きになった」は大変うれしい意見なのですが、この「理科が好きになった」や「この授業は楽しかった」という意見は、上の表から分かるように、箕輪小学校の感想文に圧倒的に多いのです。これは、理科の授業の最初で動物や植物の観察を始めたばかりの箕輪小学校の児童にとっては、ゴムをはじめとする巨大分子の実験を沢山見て、理科ってこんなに面白く楽しい面を持っているのだ、いっぺんに理科が好きになった、という状態であったのに対して、熊野田小学校の児童はもう理科の授業を半年以上受けていて理科に対する自分の立場あるいは好き嫌いはもう決まっていて、筆者の授業が如何に面白くても、ごく一部の児童を除いて、楽しいとか好きになったという表現を用いる必要はなかったのではないかと思いました。

 「カメラを3台壊してまでカメラの部品はほとんどプラスチックでできていることを見せてもらいありがとうございました」とこの授業の実験をやるうえでのいろいろな苦労に思いをいたしてくれた児童もいました。

 「じっけんで自分がこうなると思っていてちがうときに、どうしたらいいかとかんがえるのがとてもたのしくなりました」や「先生が教えて下さった文子とゴムのことについて大人になったら学者になってさらに調べ、それをもとにして、工ぎょうや科学を進歩させる事をめざします。また次のきかいがあれば来てください」あるいは「なんでねっとうをかけるとおもりが上がり、水をかけると下がるのか、よく分かりませんでした。次来てくださるときはもっと発名してきてください。もっと面白い実研も考えてきてください。わたしはますます理科が好きになった気がします。なんでこうなるのかな?と、考えたり、もう一度考え直したりするのがすごく面白かったです。ゴムや分子のお話しを、みんなが分かるようにたとえたりして説明したりするのが、すごく分かりやすくておもしろかったです」を読んで、字の間違いなどはさておき、この授業をしてよかったな、と今思っています。有難うございました。 

 終わりに、本文を草するに当たり種々ご教示をいただいた大阪大学名誉教授北山辰樹様、兵庫県立豊岡高校教諭渋谷亘様ならびに畑田家住宅活用保存会幹事矢野富美子様に深く感謝いたします。有難うございました。